時代の証言者たち~道の途上でふれあった些細な物語~

転職を繰り返してきた『僕』。半年~2年以内という短いスパンで在職してきた中で、各会社・集団には必ず ”記憶に残る人物” が存在した。筆者の人格形成に影響を与えたその人物たちとは?人生の入力時期と言われる20代から30代前半の『僕』が、出逢って感じた人物像を、人生という壮大なドラマの一コマとして綴る、期間限定のブログ。

”大将” と呼ばれた男 VS ”夢追い人”な完璧主義者

その人は、電力会社の子会社の社長のお兄さんだった。

 

 

60代後半。独身・離婚歴ありで、子どもは成人し離れて暮らしている。

体格が好く、歳の割には肉付きが良い。ガタイのよさと貫禄のある雰囲気からだろう、皆から「大将」と呼ばれていた。。。

そう、前回の投稿で登場した、あの ”大将” である。

 

前回の投稿で、この大将さんに対するイメージはよろしくないと思うが、人柄的にはけっして悪い人物ではない、と感じていた。

 

 朝のミーティング前のちょっとした時間。

皆、まだ仕事モードではなく、まどろんでいる時間帯。

「なぁ、これちょっと、見てくれない?」

と言って、僕に差し出されたのは、パソコンでプリントアウトしてきたと思われるカラー刷りの写真の数々・・・

それを、一枚一枚、紙芝居を見せるような感じで、僕にお披露目してくる。

・水面に浮かんでいるカルガモの写真

・樹木の木々の写真

僕「はぁ・・・はい・・・。まぁ、朝だし、こういう癒し系、大切ですよね!」

☆ お姉ちゃんの〇〇な写真

僕「えっ!!大将、朝からヤバいっす(笑)」

・水面に浮かんでいるカルガモ親子の写真

・樹木や草花の写真

☆☆☆ お姉ちゃんの✖✖な写真

僕「大将、朝っぱらから、しでかしてくれますねぇ(笑)」

 

風貌に似合わず、ひょうきん者。

それでいて、社長の兄貴だというのに威張ってなかった。

 

 

前回投稿の、耐電圧試験前の時期のお話。

僕は、この大将から、俗に言うところで、可愛がられることに。

僕は僕で、”ある一点” を除けば、大将のことがけっして嫌いではなく。

むしろ、どちらかと言えば馬が合い、大将が僕の営業所に応援に駆け付けたときは、大将・職場の先輩・僕の3人で仕事後飲みに行ったりもしていた。

 

その ”ある一点” というのが、”仕事をズルする、まじめにやらない” という点。

 

耐電圧試験は期間限定の仕事で、日頃僕は、『送電線のパトロール』という業務を行っていた。

送電線は、街中の電信柱間にある配電線と違い、裸線。配電線みたいにビニールに覆われておらず、また高電圧なため、ある一定の離隔(距離)内に入ると感電する。

普通に生活していれば、鉄塔に近づき送電線で感電する心配もいらない。

でも、工事現場のレッカー(クレーン)などは、地上高が高い位置まで伸ばすので、注意喚起してあげる必要がある。

さらに、他にも季節モノの警戒が必要で、春には、カラスが鉄塔に巣を作ったり、線下にある竹の子が急成長して近づく恐れがあったり。

これらは、いち早く発見して、取り除いてやらなければならない。いち早く!

さもないと、漏電して、街中が大停電に見舞われる。

 

大将は、このうち、主に『カラスの巣・警戒パトロール』だった。

そう、大将はパトロールをまじめにやらなかった結果、他のパトロール班がカラスの巣を発見したときには、すでに "100%" と呼ばれる状態まで巣が完成していた。

大停電が起きなかったのは奇跡。

トロール班は、双眼鏡を使って鉄塔を観察し巣の発見に努めるが、100%の状態までになっていれば肉眼でもそれを確認できるのだ。

 

この出来事をきっかけに、僕の気持ちは次第に大将から離れていったように思う。

 

 

そして、耐圧試験のとき。

現場ではあんな調子なのか、と失望した。

 ”一生懸命やる姿勢はあるんだけど、歳のせいで、皆と同じスピードでは出来ない”

それだったら、全然分かる。

「みんなで、大将の分までカバーしていこう!」という雰囲気になるだろう。。。

 

 

そしてついに。

いよいよ、大将とも一戦交えることに。。。

耐圧が終わった直後の時期に、大将がまた僕の営業所に、名ばかりの応援に来た。

” 遊びにきた”・・・

「今、通院している病院で、親しくなった看護師さんがいる。今度一回、3人で食事でもしないか。女の子を紹介してやる。」

ということだった。

気持ちは嬉しかった。

でも、ありがた迷惑な話だった。

 

僕は、今現在、独身だ。もちろん、当時も独身、彼女もいない。

今でこそ、だいぶ僕の考えも丸くなったとは思うけど。。。

当時は、「彼女を作るなら、その子との出逢い方は大切だ」と考えていた。

つまり、人からの紹介で女の子と知り合うのだとしたら、その紹介してくれる人物がどんな人物か、まで重要視した。たとえ、会ったこともないその子が、どんなに良い子だったとしても。

仕事をまじめに出来ない人の紹介では、僕の気持ちも盛り上がらないだろう、と思ったのだ。

 

そこで、後日、さすがに面と向かっては言いづらかったので、大将に電話してこの話を断った。

当然、大将は怒った。

「お前は、社会で生きるということがどういうことか、全然分かっていない。」と。

 

 

退職のあいさつ廻りの時期。

僕からまだ何も連絡が入ってなかったのだが、大将から一通のメールが届いた。

厳密に言うと、メールはメールでも、テンプレートと呼ばれる少し手が込んだもの。

 「Bye Bye」

モグラがモチーフと思われるキャラクターの親子が、舞台の幕が上にスッと上がると、2人でバイバイしている。

なんとも、ほっこりさせてくれる。。。

 

 

 

退職して半年後の夏ごろ。

 

何かの拍子に、以前もらったこのテンプレートメールのことを思い出し、大将のことが急に懐かしくなった。

それで、思い切って電話してみた。

そのとき、大将が僕に対して言った言葉で、締めくくるとする。

人付き合いってのはな、”水物(みずもの)” なんだ

その時、その瞬間の、お互いの熱があってのことなんだよ。

 

でも、まぁ、、、

連絡くれたことは嬉しかったよ。

それ以降。。。

僕は大将に電話していない。

もちろん大将からも連絡は一度もなかった。