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時代の証言者たち~道の途上でふれあった些細な物語~

転職を繰り返してきた『僕』。半年~2年以内という短いスパンで在職してきた中で、各会社・集団には必ず ”記憶に残る人物” が存在した。筆者の人格形成に影響を与えたその人物たちとは?人生の入力時期と言われる20代から30代前半の『僕』が、出逢って感じた人物像を、人生という壮大なドラマの一コマとして綴る、期間限定のブログ。

神が恐れた男

その人は、警察官であり、凶悪犯罪を専門とする強行係の刑事さんだった。

 

20代半ば。独身で、遠距離の彼女さんが東京にいる、と当時は言っていた。

僕とは、5~6歳年下だったが、微塵もそんなことは感じず、むしろ ”頼れる兄貴” 的な存在だった。

テレビドラマの刑事役の俳優さんは皆ほっそり体型のため、彼が刑事だと知らされるまでは誰もそうだと思わないだろう。それぐらい大きな体で、警察学校時代には、握力測定や跳躍飛びで新記録を出し、未だに破られていない。

 

警察組織は機密情報の塊なので、、、このブログでは『Kさん』と銘打つ。

 

 

 こんなエピソードが、署で語り継がれている人物だった。

Kさんが刑事になる前の、警察学校を卒業したばかりの実習期間中、すべての課から「Kがほしい」と言われた男。交通一・二課、生活安全課、そして刑事課・・・

 

でも僕は、噂を耳にしていても、先入観なしで自分の感性でKさんのことを判断してやろう!、と密かな思いを内に秘めていた。

 

そんな僕が、Kさんの秀逸さに出くわした体験が、2つほど。。。

 

 

一つ目は、僕自身が刑事実習中、すでにKさんは新米刑事で、ある現場に臨場した時の話だ。

 

 僕のような実習生が現場で出来ることといえば、雑用と図面を書くことぐらい。。。

遺体が発見された家屋の平面図を書くよう指示された僕。

 

必死に図面を作成し、我ながらなかなかの出来栄え!、と自己満足。

そこに、K刑事がやってきた。

「やぎさん、図面OK?」

 

さすがは、Kさん。

ご遺体の関係者や鑑識課の方たちと、何やら色んな話をしている最中、”ひよっこ” 実習生の面倒を見ることも忘れていなかったのだ。

 

僕は、どーだ!!と言わんばかりに、図面を差し出した。

K刑事は、しばし図面を眺めると、こんなことを言った。

「やぎさん、この図面書いてて、疑問に思ったことなかったですか?」

 

僕「疑問ですか?疑問??うーん、特には・・・」

 

K刑事は、僕をバカにするわけでもなく、淡々とこんなことを言った。

「やぎさんだったら、トイレがない屋敷に住みたいと思いますか?」

 

僕「えっっっ!」

確かに、自分が書いた図面をよく見ると、トイレがない・・・

 

どうしてどうして。

まさか、掛け軸の裏側に隠しトイレあり!

んなバカな(笑)

どうしてなの。。。

 

「別に、やぎさんが書き損じたわけじゃあないと思いますよ。」

そう言うなり、K刑事は視線を少し遠くの、庭先にある小さな小屋に目をやった。

 

そうなのだ。

この家屋は、築年数がだいぶ古く、トイレ→厠(かわや)が別の建屋にあったのだ!

 

※「やぎさん」と「さん」付けなのは、警察組織の徹底的な縦社会によるもの。

”階級・先輩後輩・年上年下”

どれか一つでも、自分より上の要素を持つ相手には敬意を持て!という教えから。

 

 

もう一つの体験。

 

家屋全焼の火災見分で、K刑事と共同で臨場したときの体験だ。

 

 火事は、放火なのか?それとも家主の不注意からなのか?という事件性を探るため警察が動くことは、一般人でも知っているし、実際の現場では消防の方たちとの共同作業になる。

でも、焼け焦げた現場を、実際に片付けるのは、警察側の仕事なのだ。

捜査+片付け

そんな折、こんな出来事があった。

 

まず凄いと思ったのは、全焼して家の骨組みぐらいしか残っていない状態から、家を頭の中で復元して平面図を描いていたK刑事。

当然実習生などにはできるはずもなく、、、いや、ベテランの刑事さんでも難儀だったに違いない。

 

それを証拠に、、、

消防は消防で、報告書作成のため現場検証するのだが、図面担当と思われる消防隊が手をつけられず・・・

その様子を見ていたK刑事。

「もしよかったら、この図面参考にして下さい。」

そう言うなり図面を差し出すと、

消防「・・・。すごい。すみませんが、これ、そっくりそのまま写させてもらってもいいですか。」

その二人の様子を観察しているだけの僕、、、みたいな(笑)

 

しかし、本題はここから。

警察も消防も実況見分が終わり、いよいよ僕ら若い衆の警察官の出番。

現場の片付けをしている最中での話だ。

 

庭に面し、縁側があったと思われる掃き出し窓を解体する際での出来事だった。

その掃き出し窓を枠ごと取り外せ、との上司からの指示に、ある警察官がさっそく作業に取り掛かろうとしたのを目撃するやいなや、

「それだと、”志村けん” みたいになって危険だよ!」

と注意するK刑事。

 

二十代の警察官は意味が分からなかったのだろう。その場に凍り付いたままだ。

 

僕「窓を ”引いて” 解体しようとすると、枠ごと自分の方に倒れてきて危ないから、反対側に回って、"押し倒したら" ということだよー。」

 

二十代の彼は、志村けんのコントを見たことがなくても、不思議ではない世代。

障子の枠ごと頭にズボッと倒れてきて、目に星が回っている・・・というコント。

危険を察知したK刑事が、瞬時にそんな状況が頭に思い浮かび、それになぞって注意喚起したことに、Kさんの非凡さを垣間見た僕だった。

 

 

一体全体、このKさんとは何者なのか。

 

 警察官になる前の現役の大学生時代は、ある陸上競技のアスリートだった。

ニュースで取り沙汰されるぐらいまでの成績を残していた。

その証拠の記事を、ネットニュースで僕に見せてくれた。

皆が就活の時期は、プロのアスリートになりオリンピックを目指すか、悩んだ時期もあるという。

 

結局、他にやりたいことが見つかって、その道は選ばなかった。

警察官も、『道の途上』。

その目的のためには経験を積んでおきたい、ということだった。

残念なことに、その目的が何なのか、までは教えてくれなかった。

 

でも、代わりに、こんなアドバイスを僕にしてくれた。

 

「成功の秘訣は、”イメージトレーニング” なんです。

 前日の夜、寝る前にも、競技場についたらまずどんな準備運動をどのくらいして、、、体のどことどこの部位はこういう動きをして・・・そこまで考えます。何回も何回も繰り返し。。。

イメトレしておかないと、いざ本番自分の番になっても、競技場の雰囲気に呑まれ、委縮して何もできなくなります。競技場には『魔物』がいますよ。

だから、事前の練習が大事なのはもちろん、イメトレを頭の中でずっと繰り返す。

きっと仕事も一緒ですよ!」

 

「実は、やぎさんがどういう経歴の持ち主なのか、知ってるんです。

刑事なんで。調べれば簡単に分かってしまうんです。

やぎさん、怒らないこと知ってるから事前に許可を得なかったですけど。今白状しておきます。

 

受験と一緒です。

やぎさんも、受験のときはイメトレをたくさんしていた。

だから、その大学に合格できた。

警察の仕事、覚えることたくさんあるように見えますけど、、、受験と一緒です。

だから、やぎさん大丈夫です。

ビビらないでも。

 

もし、分からないことがあれば、何でも僕に聞いてください。

地域課で大変な思いをしていること、噂で聞いてます。でも大丈夫、僕が付いてるので大船に乗った気でいてください!」

 

 

『完全無欠』という言葉は、まさにKさんのような人のためにある言葉だと思った。。。

 

しかし、そんなK刑事でも、急増した事件・事案に追われ・・・

 

忙しさと疲れには勝てなかった。。。

 

僕が刑事課強行係に実習したのが春先。

秋~年末は、毎年事件が増加傾向だが、この年に限ってどういうわけか、例年にも増して事件が多い!と署の諸先輩方が口々に言っていたのを記憶している。

 

結果。

K刑事が倒れた。

 

<後編につづく>